「道頓堀 太郎寄席」、弥生三月は「松の会」一本でおました。
その代りといっては何でおますが、「松の会」やけれども「三席」の会になっておりましてん。文三師匠は「三席」の会にご熱心なのでおます。
今回のゲストには、一年ぶりに講談の旭堂南斗がおでましでおました。
文三師匠は、ちょいちょいゲストに講談師さんを招きはりますが、ふだんなかなか講談を聴く機会もおませんので、よろしおますな。
「太郎寄席」にも、南青はんと南斗はんと、お若いところがお出ましでおますが、明るうてよう笑いをとりはる南青はんに対して、ちょっと静かな感じの南斗はんと、個性がそれぞれでよろしおますな。文三師匠は、南斗はんは「ちょうどええ陰気さ」なんておっしゃっておりますが、落語も講談もいろいろな色や空気あるのがよろしいなと思うておるのでおます。

さて、その南斗はんは「将棋大名」という講談でおました。下手でわがままな将棋を指しては家来を悩ませる殿さんの話でおます。最後に家来の三太夫が殿さまを追い詰めてゆくところが面白いのでおます。
これは落語にもなっておりますが、同じお話でも、講談と落語とでは違う楽しみがおますな。
いっぺん、「太郎寄席」で講談の会もやってみたいなと思うておりますねん。いつもと反対に、ゲストに落語、という趣向でどないでっしゃろか。
さて、文三師匠の三席でおます。
最初は「前座」でおますさかい、羽織なしの前座姿でおでましでした。

五代文枝師匠へ入門しはったときのエピソードでマクラが始まります。今日のこの最初の衣装は、はじめて文枝師匠に買ってもろうた着物やということでおました。
二つ上の兄弟子さんである文華師匠の年季が明けたばっかりということで、こちらのお供もようしはったというお話もありました。昔は文華師匠はえろう酒癖がわるかったそうでおます。文三師匠は召し上がらないので、文華師匠のお守りをすることになっては、よう困ってはったそうでおます。
文華師匠は「太郎寄席」でもおなじみで、毎度すばらしい芸を見せていただきますが、若い頃の文三師匠にはお気の毒なけど、やっぱりええ芸人さんというのは、どこか破綻してるもんなんでおまっしゃろか。そういえば、桂ざこば師匠も若い頃、酔っぱらって朝起きたら太左衛門橋の上で寝ておったとか、ご自分でもようマクラのネタにしてはります。
さて、最初のお噺は「十徳」でおます。羽織ににた「十徳」という着物の名前の言われを覚えて、それを自慢しようというアホな男の噺でおます。しったかぶりをする阿呆の噺というのが落語にはちょいちょいおますな。そういうのは噺じたいがようでけておりまして、前座向けなんでおまっしゃろな。そのかわり、いっぺん聴いたことがあったらタネはバレるもんでおます。たいていはまだあんまり上手でない前座はんがやっておって、しかも噺のタネがバレておるような噺こそ、こういうベテランの手にかかるとたちまち見違えるのでおます。「三席」ならではの楽しみでおます。

次のお噺は「湯屋番」でおます。
これは東京落語でようかかるお噺でおまっしゃろか。わては初めておました。
道楽して勘当された若旦那が風呂屋へ奉公に行く噺でおます。無理やり番台へ上がって、なにやら一人芝居みたいなことをやってワヤになる噺でおます。
阿呆が一人と、それを冷めた目で眺める客の描写でおます。
ちょっと『男はつらいよ』の映画の、割合古い方、森川信が初代「おいちゃん」をしてた時の、「・・・バカだねぇ」ちゅうのを思い出しますな。そういえば、文三師匠は最近『男はつらいよ』に凝ってはるのやそうでおます。わても好きでおまっせ。

トリは「天神山」でおました。文三師匠がお得意な噺のひとつでおますな。
このお噺は、「へんちきの源助」というのが、おまるに弁当を入れてしびんに酒を詰めて、花見ならぬ「墓見」に行くところからはじまります。夜中に、お墓の主の女子はんが幽霊になって訪ねてきて嫁入りするということになって、隣に住んでおる「胴乱の安兵衛」というのが真似して出かけて、こっちは全然違う成り行きで狐が嫁入りしてくるという噺でおます。
文三師匠にお聞きしたところでは、このお噺は前半と後半とで主人公がまったく別々になっているので、噺がばらばらにならんように、「はて、源助はどないなったのかな」と思わせんように進めるのが難しいということでおますねん。
前半は「骨釣り」、東京で言う「野ざらし」にも似ておりますが、「天神山」のほうはその後の後半の方が見せ所でおます。とはいうても、どちらの筋も、本来的に笑い話やのうて、奇譚というべきでおまっしゃろな。ほんで、ちょっとほろっとさせるのでおます。
「へんちきの源助」という男も世をすねたようなけど、憎めん。「胴乱の安兵衛」も阿呆なようでたいへん人がええ。というところを描写するのも難しそうでおます。
桜が咲き乱れる春の日の真昼の夢のような、おだやかな、ええ噺でおます。
ついでに、「へんちきの源助」が墓見に持ってゆく花見弁当も美味しそうなんでおます。鰆(さわら)の生寿司(きずし)、玉子の巻焼き、「巻焼き」というのは玉子焼きのことでおます、それに烏賊の鹿の子焼き・・・。ここを聴くたんびに、わても弁当もって花見に行きとうなりますねん。