わてが太鼓叩いております道頓堀の「中座くいだおれビル」は、7月19日が開館記念となっておりますねん。そやさかい、その節目のええときに、お狸様に入っていただこうと思うて、どないしてお迎えしたらええやろかと、みなで考えておりましてん。
中座の狸さんは、もともと、氏神さんの難波八阪神社にお守りをしていただいておりますのやけど、その難波八阪さんの夏祭りがちょうど7月13日でおますねん。それも、船渡御というて道頓堀に船を出して、神様をお迎えするというけっこうな行事でおますねん。
船渡御いうたらキタの天神さんばっかりが有名なんでおますが、難波でもやっておりますのや。というても、長いこと途絶えておって、地元の氏子さんたちが2001年に復活させたという行事なんでおます。なんと、230年ぶりの復活やそうな。
そこに、わてと狸さんも参加させてもらうことになりましてん。
復活してから十年以上経って、この船渡御も賑やかになっております。「講」というて氏子さんがそれぞれに船を仕立てて、二十隻くらい出るのでおまっせ。
湊町の船着き場から順々に出発して、船の上から宮司にお祓いをしてもろうてから、道頓堀を下っていって、折り返して日本橋まで行って、また帰ってくるのでおます。船の上ではお弁当やらお酒やらが出ますねん。
宵の口のええ時間でおます。
道頓堀川の遊歩道にも、橋の上にも、まわりの建物にも、ぎょうさん人が出て、手を振って眺めてはりますねん。
船渡御の名物は、船どうしが行き交うときに「大阪締め」というのをやりますねん。「打ちましょ、チョンチョン、もひとつせ、チョンチョン、祝うて三度、チョチョンのチョン」と、こないでおます。
わてらは、雅楽の楽隊が乗る船に一緒に乗らしてもらいました。人形師の人形健さんも一緒でおます。
7月13日いうたら例年は梅雨明け前でおます。今年は梅雨明けは早うおましたけど、この日はえらい夕立がありましてな。船が出る直前には、キタの方は大雨になったのやそうでおます。
船渡御の行事は、難波八阪神社で祭典をやってから、お神輿かついで船着場まで練り歩くのでおます。そのときに、北の空が暗うなって、雨がポツ、ときまして、ああ、こら夕立が来るなあ、いうてましてん。
ところが宮司は「大丈夫、大丈夫」言うてはりますねん。
不思議なこともおますな。ほたら、ほんまに雨が道頓堀をよけるようにして、こっちへは来んと、東へ逃げていったのでおました。
宮司がおっしゃるには、「毎年、お湿りくらいは降るけど、どういうわけか船渡御の時は降りませんのや」ということなんでおます。
やっぱり神様がいてはるんでおまっしゃろか。今年は狸さんもいてはることでおますしなあ。
日本の神話では、神様とかよそから来る者は、船に乗ってくることになっておりますねん。そやさかい、海辺には戎さんとか、住吉さんが祀ってありますのやな。戎さんも船に乗ってやってきはったということでおます。船渡御というのも、船で神さんをお迎えするということなのでおますのや。
ほんで、今年は狸さんも船に乗ってやってきはったのでおますな。
船渡御のしまいに、一足さきに太左衛門橋の船着き場で下ろさしてもろうて、そのまま中座くいだおれビルへ狸さんをお連れして、お祀りしたのでおます。
