年度末もおしつまり、3月さいごの平日の夜でおます。
さすがに、年度末というのはお運びも少のうございますが、それでもお越しいただきましたお客さま、おおきにありがとうございます。
年度末は区切りよく、第一回太郎寄席の桂文三はんが主役でおます。
まず、最初に桂ちきんはんの前座。「煮売り屋」でおます。きん枝師匠への入門が2008年秋でおますから、「大阪名物くいだおれ」をやっておったときはまだ噺家さんになってはらへんのやな。まだ20代とお若いのでおますが、「太郎寄席」は毎度毎度、前座はんといえどもよう笑わせてくれはります。楽しみでおますな。
さて、文三はんの一席目は「京の茶漬け」でおます。これは、まあ、何と言うたらええのか、これほど京都人をおちょくった噺もないのでおますのやが、大阪ではほんまに定番になっておる噺でおますな。
かの有名な、「どうぞぶぶ漬(お茶漬け)でも召し上がっていっておくれやす」というあの京都の挨拶、ただの挨拶やさかい無理やり真に受けるほうがおかしいのでおますのやが、いっぺんほんまに「京の茶漬け」を食べて帰ったろという大阪の男と、京の町屋の奥さんの攻防が面白うおます。
京都のお方がたはこの噺、どない思うてはるのでっしゃろな。いかにも京都らしいシマツ(ケチ)と、「ぶぶ漬でも・・」という心にもないような挨拶のおかしさを笑うているようでおますが、そやけど、なんべんこの噺を聴いても、ずうずうしゅうて困るのは大阪の男の方でおますなあ。なんや、京の奥さんの方が気の毒になってきますのや。そのあたりが、この噺の面白いところでおますかな。文三さんのお師匠さんの文枝師匠もよう高座に上げてはりましてん。
つづいては風喬はんの「試し酒」でおます。「酒が五升飲めるか」と試される男は、まだ訛りの抜けない田舎者という設定の噺でおますのやが、これを上手にやるのがなかなか難しいのやろうと思います。東京のお方が大阪弁をしゃべるのがなかなかでけんように、都会の人間が田舎の訛りをそれらしい雰囲気でしゃべるというのは難しゅうおます。
風喬はん、出身が九州ということでおますが、なるほど九州男児らしいええ「田舎モン」を演じはりますなあ。これはええ雰囲気でおました。わてら大阪の人間にはこればっかりはマネでけまへん。やっぱり落語というのは「話芸」でおますな。訛りひとつ、雰囲気ひとつで面白うもなり、つまらなくもなるもんでおますな。
さて、中入りの後はちょっとお遊びでおます。
「太郎寄席」は、はじめに参加していただいた噺家さんのご要望もあり、またこちらの希望でもありましてぜいたくに生の鳴り物を入れております。簡易な会やったら出囃子もCDで鳴らすところ、毎回毎回、若手とはいえほんまもんの下座の囃子方はんが来て弾いてくれてはりますのや。
そやさかい、出囃子だけやったらもったいないさかい、毎回一席は「はめもの」いうて、鳴り物の入る噺がかかりますねん。東京の落語ファンの方々はちょっとなじみのない演出でおますようやけど、高座と下座と、ばっちり息の合うたハメモンはほんまに艶があってええもんでおまっせ。
さて、今日の文三さんのお遊びは、下座の太鼓を持ち出しまして、「出囃子はどない打っておるか」の舞台裏でおます。出囃子いうのは、専門の囃子方はんがやるのではのうて、こないして噺家はんが交代で打ちはることが多いのでおますな。そらそうですな。こんな小さい会でいちいち三人も四人も囃子方入れておったらソロバンが合いまへん。
大太鼓、太鼓、鉦それぞれ一人ずつつくのがふつうでおますのやが、中には手が足らんこともあって、独りで二つ、右手に違うバチを持って打つこともおますのやそうな。これはまた、観ておるだけで大変そうでおます。噺家はんというもんは器用でないとつとまらんのでおますな。
こんで、文枝師匠の出囃子、誰それの出囃子、とひととおりやってみせはりますのや。年度末のオマケでおます。これはなかなか見られるもんやおまへん。今日のお客さん、えらいトクしはりました。
さて、ほんで今年度の仕舞いの大トリは「悋気の独楽」でおます。これは文三はんのお得意の噺でおますな。お妾はん(大阪では「おてかけはん」と言いますのやな)のところへ泊ってゆくけど、御寮さんには黙っときやと因果を含められる丁稚と、口を割らせようとする御寮さんの、これまた攻防が面白うおますのや。さらに、そこへ「お竹どん」いうこわいこわい女子衆(おなごし)が登場するのが噺のようでけたところで、この丁稚と女子衆はんと御寮さんのやりとりの「間」が、文三はんのお得意のところでおます。
ええ区切りの「太郎寄席」でおました。
どうぞ、ひきつづきご贔屓によろしゅうおたの申します。
4月の会は16日(月)と25日(水)。16日は桂米紫はん、25日は笑福亭生喬はんが主役でおます。「道頓堀Zaza」のサイトでチェックしてみておくなはれや!