というわけでおまして、わてが席亭をつとめます「道頓堀 太郎寄席」、いよいよ始まりましてん。
こけら落としの「文三三席 三連夜」のその初日、サプライズゲストですねん。
お客さんもびっくりしはったかしらんけど、わてらもびっくりしましてん。
この日の朝、笑福亭鶴瓶師匠から文三さんに電話があったそうな。
「今夜、落語会やるらしいけど、わしも喋らせてもらえへんやろか?」
文三はんもさすがにびっくりやったそうな。
「師匠、そら、かましまへんけど、ギャラなんてようお払いしませんで」
「そんなもん要るかいな、わしが払うたるわ!」
かけあいがすでに落語でおますな。鶴瓶師匠は天満天神さんの繁昌亭では、ようお弟子さんの会に飛び入りしはるのやそうなけど、こんなでけたての小さな小屋で、しかも弟子筋でもない文三さんの会に来てくれはるなんて、夢にも思うてまへんがな。
小さい会場ながら、50人くらいの盛会ではじまりましてん。いっぱいでおましてん。
わては席亭やさかい、舞台の前の下手でこないして控えておりますねん。
まず、文三はんの短い噺、「動物園」ではじまりまして、続いて、桂まん我はんの「寄合酒」。おなじみの定番でおますな。
ほんで、文三はんもういっぺんの「宿替え」でおます。東京では「粗忽の釘」いう番組でおます。
そのあとの、中トリで鶴瓶師匠でおますねん。そのお師匠はんの笑福亭松鶴師匠のお話の枕から、「かんしゃく」というお噺を、松鶴師匠にあてて改造しはった噺。
「短い噺をな、ちょっとしゃべらせて」
いうて言うてはったそうなけど、たっぷり一席聞かせていただきましてん。お客さんも大喜びでおました。わても楽しゅう聴かせていただきましてん。
ほんで、中入りの後に、文三はんお得意の「高津の富」で締メでおました。小さい小屋でやりはることはなかなかない噺やそうな。小さいところでやるのが難しいそうでおますけど、今日はお客さん、シン、として聞き入ってはりましてん。
小さい小屋やさかい、お客さんの顔が見えるし、お互いの息遣いもわかる。そういうところで時々はやらしていただかんことには、勘が狂って自分の噺の間やらテンポがわからんようになりますのや、ということでおますねん。そやさかい、今日はええ会をさせていただいた、いうて、文三はんに言うていただきましてん。落語もなかなか難しいもんでおますな。
今日はお客さんも落語の好きなお方ばっかりやとみえて、ええ落語会になりましてん。
鶴瓶師匠は、上方落語協会の副会長をしてはりますのやけど、なんや、今日の飛び入りは、わてらにご祝儀をいただいたような、そんな花をしていただいた心持でおます。
文三さんのお師匠さんの五代目文枝師匠が、若いころに先代の五代目松鶴師匠のもとにおらはったこともあって、鶴瓶師匠のお師匠はんの六代目とは兄弟分やったそうでおますねん。そんなご縁で、生前の五代目文枝師匠の独演会に鶴瓶師匠もお出でになったこともあり、いろいろ気にかけてくれてはりますように思いますねん。
文三さんのご人徳でおますな。幸先から、ええご祝儀でおました。
中日二日目は、鶴瓶師匠のお弟子さんの笑福亭銀瓶はんでおました。
こちらは、さいしょからちゃんとゲストにお願いしておりまっせ。
文三はんと銀瓶はんは、二人会もようやってはるさかい、楽屋のやりとりも息が合うてはりますなあ。
銀瓶はんは「七段目」でおました。芝居が材料になっている噺で、東京の噺家さんがたもようかけはる演目でおますが、もともとは上方のお噺やそうでおますな。銀瓶はんはスッとしてはるさかい、芝居がまたよう映えますのやな。「はめもの」言いましてな。途中で生の三味線が入る、芝居仕立ての落語は上方落語の醍醐味のひとつでおます。
この日はまた今日になってからのこっちゃけど、ゲストで林家卯三郎はんが前座を務めてくれはりましてん。お題は「てっちり」でおます。和やかな席でおました。
文三はんはそのあとに、中入りをはさんで三席つづきでおました。まずは「四人癖」という軽いお噺、ほんでから「替り目」。文三はんはほとんどお酒を召し上がらへんのやけど、文三はんの陽気な酔っ払いは絶品でおますなあ。
ほんで、中入りをはさんで「井戸の茶碗」でおました。ええお噺でおますな。これはもともと東京落語のお題なのやそうですなけど、わては上方風にやってもらうのが好きでおますねん。地名も、上方風のほうがなじみがありますさかいな。お噺の筋には笑わせるようなところはあまりおませんのやけど、なぜかよう笑いましてん。
さて、楽日の三日目、日曜日はあいにくの雨でおましたが、ようお運びでおました。
この日は講談の旭堂南青はんがゲストでおます。落語会に講談とは、とお思いになるかもわからしませんが、わてのリクエストでおますねん。文三はんの落語会に南青はんがちょこちょこお出でになっておって、これがまた面白うおますねん。まだお若いのやけど、話はうまいし、ほんでまた、よう笑えますねん。上方の講談ちゅうもんは、笑いもとりはりますのやなあ、ということで、おこしいただきましてん。
今日の文三はんは、まず最初に「時うどん」でおました。定番中の定番でおますな。そやけど、東京のお方は上方の「時うどん」はあまりご存じおまへんやろな。上方のは「時そば」と違うて、一人ずつやのうて、はじめに二人で出てきますねん。まあ、そんなアホなことする奴があるかいな、と思うような噺になっておって、それがまた面白いのでおますな。上方でも長いことかかっておらなかったものを、文三さんのお師匠はんの五代目文枝師匠が40年ぶりくらいに復活させはってから、ようかかるようになったそうな。
ほんで、南青はんは「木津の勘助」というお話。落語と違うて、やっぱり講談はお芝居の色が強うおますな。大阪の「勘介島」という島を作った、大阪の侠客のお話でおます。南青はんはまた男前が良うて声もええさかい、こういうお話も似合うておりますな。
さて、中トリはまた文三はんで「桃太郎」。ほんで、中入りのあとのトリは「莨(たばこ)の火」という、大阪のお大尽のお噺でおます。こういう旦那さんが出てくる噺は、文三さんまた上手でおますねん。これも鳴りものが入りまして、華やかなお噺でおました。
お客さんの中には、三日ともお越しいただいた方もおましてん。ほんまにありがたいことでおます。
おかげさまで、「くいだおれ太郎の 道頓堀 太郎寄席」、初回の「文三三席」をつつがなく終了いたしましてん。三日間、三席ずつやっていただいた桂文三師匠、ほんで鳴り物をやっていただきました吉崎律子はん、笑福亭鶴瓶師匠はじめ、ゲストのみなさんに、何よりも、お運びいただいたお客様のみなさん、ほんまにおおきにありがとうさんでおます。
次回は11月7日の月曜日に開かしていただきますねん。今度は桂春蝶はんの二席に、ひきつづき桂文三はんと、林家花丸はんのご登場でおます。
みなさん、またぜひお運びのほど、よろしゅうおたの申しますねん。