春の鯛を「桜鯛」と言いますが、明石の鯛は秋の「紅葉鯛」なのでおます。
鯛という魚は、冬の間は深いところにおりまして、春になって水が温(ぬく)うなってくると、浅いところへ上がってきて卵を産むのやそうです。浅いところへようけやってきて、獲りやすいさかい「桜鯛」という「旬」やということになったのでおまっしゃろな。
産卵期の鯛、それもメスの鯛はいかにも「桜」と呼びたくなるような美しいピンクになるのでおますが、お腹の中の卵があまり育ってくると、今度は身が痩せて味が落ちるのでおます。
卵を産んだ後の鯛は、夏を過ぎると体力も回復して、秋になると脂も乗って美味しゅうなるということでおます。明石では10月から12月はじめにかけての鯛を「紅葉鯛」と呼んでおりまして、この時期が一番美味しいのやそうでおます。その代わり、ええお値段もするそうでおます。
12月の半ばを過ぎて海の温度が下がってくると、鯛はまた深いところへ潜ってしまうそうでおます。明石の鯛漁は「吾智網漁」と言う、割合浅いところでの漁が主なのやそうで、鯛漁もだいたい12月の中ばには終わってしまうそうなのでおます。
その「紅葉鯛」が届きましてん。
明石では活けものの魚はみな、こないして血抜きをしてくれますねん。エラの中を切って血を抜くさかい、よその「活け締め」と違って傷がおまへんねん。
活きがええ上に、今回は神経抜きまでしくれはったさかい、締めたその日はまだ早うおます。わては2、3日寝かしてからよばれるのが好きでおますねん。
今日の鯛、お腹の身はポワレにして、背中の身は薄く削いで昆布締めにしてよばれましてん。昆布締めの方は、骨で取った出汁をかけて出汁茶漬けにしましたら、なんとまあ至福の一品になりました。
脂がよう乗っておりましてびっくりしましたけど、身の味自体も美味しいおますなあ。明石、明石と言うだけのことはおまっせ。