太郎寄席 師走の松の会

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「道頓堀 太郎寄席」平成25年の師走の松の会は桂文華師匠でおました。

 今年で五十の大台でおまして、高座に上がりはるとその貫禄ちゅうか落ち着きいうか、お歳以上かもしれませんが、その割に高座を降りるとお歳以上にお若い印象なのでおます。一門でも認められる、芸に厳しい師匠でおます。

 というても、春團治師匠みたいな「孤高の落語家」という方向ではおまへんねん。もっと気楽ゥな感じでおまして、熱燗でも飲みながら噺を聴いているみたいな、そんな気分がするのでおます。

 

 さて、今日の前座は桂小留はんでおます。「小留」と書いて「ちろる」と読ませるそうでおます。お師匠はんは桂小枝師匠でおます。「小枝」の弟子で「ちろる」て、なんやチョコレートみたいな名前でおますが、二年目のお若い前座さんでおます。

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 小留はんのお噺は「牛ほめ」でおました。船場の阿呆が池田の伯父さんとこいって家をほめる噺でおます。前座噺としては定番でおまして、前回の文華師匠の会でも前座がこの噺でおました。

 噺家さんの内弟子修行というのはだいたい三年でおますさかい、二年目いうたらまだその最中でおます。年季が明けても、二十代のうちはまだまだプロというには物足らんことも多いのでおますが、小留はん、二年目とは思えんほどしっかりした噺をしはりましてん。

 だいたい、「太郎寄席」の、特に「松の会」の師匠がたはみなさん芸にやかましいさかい、前座からようお客さまに受けるのでおますけれども、文華師匠はひときわ厳しいだけに、ええ若手を連れてきはります。あとで楽屋言ったら、「僕は上手な子しか呼びませんから」ということでおました。

 

 ゲストは笑福亭喬介はんでおます。

 喬介はんはもうすぐ十年目、三十代前半の噺家さんでおます。おなじみの笑福亭生喬師匠の甥弟子というんでっしゃろか、三喬師匠のお弟子さんでおます。

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 喬介はんは、ちょっと前までは文三師匠の会に前座でよう出てはりまして、たいがい「寄合酒」をかけてはったのを、わてもよう観ておりますねん。そういえば、最近2,3年観ておりまへんな、今日も「寄合酒」でおまっしゃろかと思うておったら、「饅頭こわい」をかけはりました。

 どっちも若いもんがようけ寄って、わあわあいう噺でおますが、ちょっと見んうちに、喬介はん、一段と成長しはりましてん。前は二十代の落語やったのが、三十代の落語になっておりました。

 喬介はんは体格に似合わず声が高いのでおますが、その声の高いのを活かした演りようでおまして、その声だけで笑わしはりますねん。うまいこと、ご自分のスタイルを作りあげはりました。これからが楽しみでおます。


 

 さていよいよ文華師匠は、「池田の猪買い」と「三枚起請」でおます。どちらも上方落語の古典でおますが、「猪買い」はようかかりますねんけど、「三枚起請」は今はあんまりかからへんのやおまへんやろか。わては、高座で聴くのは初めてでおました。

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 「猪買い」は、船場の阿呆が池田へ猪の肉を買いにゆく噺でおます。この噺の舞台が江戸時代か明治になってからかはようわかりまへんけど、江戸時代から「山くじら」やら「薬食い」やら言うて、猪を食べておったそうでおますな。猪の鍋を「ぼたん鍋」、鹿の肉を「紅葉」、鶏を「柏」いうて言うのは、ほんまは肉ちゅうもんをあんまり食べたらあかんことになっておった時分の符丁なんやそうでおます。

 この「猪買い」の阿呆というのんは、底抜けの阿呆やのうて、いらん理屈は働く阿呆なんでおます。底抜けの阿呆というのも演るのは難しいと思いますねんけど、いらん理屈が働く阿呆というのは、うまいこと演らんとイライラさしてしもて、可愛げがのうなるんでおます。

 このあたりの阿呆さ加減は、また文華師匠の上手なところでおました。理屈は合うてんのやけど、ネジが一本はずれて違う方へいってしまうような阿呆でおます。

 寒い時分が舞台の、暮にふさわしいお噺でおました。

 

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 「三枚起請」の方は、遊郭が舞台でおます。

 江戸の「吉原」はよう知られた遊郭でおますが、大坂にも「新町」という遊郭がおまして、えろう賑わっておったそうでおます。今はもう跡形もおまへんが、「西区新町」という地名に残っております。四ツ橋筋の西、長堀通の北側の一帯でおます。

 この噺の「起請」というのは、結婚の約束を書いた手紙のことでおます。そんなもん、ふつうは一枚しか書かんもんに決まっておりますが、この噺は、年増で落ち目の遊女があちこちに起請を書いたら、たまたまその客どうしが仲のええ友達やったという噺でおます。

 はじめの方で、だいたいの筋書きは終わったような噺で、おまけに、舞台が今となっては馴染みのない遊郭の噺でおます。男の三人は賢いのんが一人、阿呆が一人、ふつうが一人、それに起請を書いた遊女というのが登場人物でおますが、その描写がこの噺のカナメということになるのでおまっしゃろな。

 男三人で遊郭に乗り込んで、どないなるか、いっぺん機会をみつけて文華師匠の噺を聴いてみておくなはれ。東京落語にも「品川心中」みたいにしたたかな遊女が登場しますが、大坂のはもうちょっとはんなりとしておりますねん。東京落語の「三枚起請」は、大坂の噺を吉原へ移したもんやそうでおます。